ゼッセイビジョン

zz.jpg
ゼッセイちゃん。ちゅうに病セカイ系アイドル




ゼッセイビジョン
昔むかし、あるところに、この世のものとは思えないほど美しい女の人がいました。
彼女はあまりにも美しすぎたため、老若男女を問わず、見るものすべてを魅了し、夢中にさせました。
ただただ純粋に、無垢に、どこまでもどこまでもその美貌を磨いていった結果、人々はいつしか、彼女以外の存在に対する恋する心を、愛情を、失っていきました。

当初それは一時的な社会現象、只の流行として認識されたため、ごく一部を除いて、世論は深刻なものと受け取らず、国民的美女、一億六千万人が恋の病に落ちた、などと好意的に報道されました。


傾国の美女。
絶世の、美女。


時に自らの意志で、時に当人の意志に反して、その言動が火種を生み、あるいは彼女らの存在そのものを巡って、多くの血が流れ、国が滅ぶ。
それは、神話や伝説、おとぎ話の中で、幾度となく語られたモチーフです。

しかし、それはあくまでも、後世に作られた物語。
噂好きの民たちが、あるいは物語の語り手たちが、実際にあった戦争や国の滅亡を、より劇的に伝えるため、実像とはかけ離れた偶像に結びつけて紡いだ、只の創作に過ぎない。
そのはずでした。

ですが、そのとき、確かに、世界は滅亡に向かっていました。
たった一人の美女の存在を、引き金にして。

神話の時代と違い、その頃の世界の国々はかつてない程に、密接に繋がり合っていました。
彼女の影響は、情報の波にのって、瞬く間に世界中へと広がっていきます。
人々が異変に気づいたときには、文明はゆっくりと、
でも取り返しのつかないところまで、傾いていました。

その年の世界の出生数は、前の年の数分の一に激減しました。


たった一人の女性の魅力に国が、世界が滅ぶ。
馬鹿げた妄想だと、もはや笑ってはいられない状況です。
伝染してゆく「恋の病」の原理は未だ未知でしたが、原因は、彼女にあるらしい。
なぜなら、彼女が現れてから、すべてが変わった。
現に、大多数の人々の意識を今支配しているのは彼女の美貌ではないか。
その認識は未だ美女に心を捉えられていなかった者たちの間で固まり、彼女を止めるため、密かに、あるいは公に、いくつもの国が動き始めました。

国を守るため、世界を守るため、そして愛する心を、愛を守るための戦い。
人類の心が、世界が、共通の目的の元にひとつになる…
はじめは、そう思われました。

しかし、すべては遅かったのです。
なぜなら、そのときにはもう、世界の半数以上の人々の心が、美女の虜と化していたのですから。

美女の暗殺を指示したある王国では、王様が実の息子達によって討たれ、滅びました。
またある国では、強力な兵器で彼女の国ごと焼き払う計画をたてましたが、軍が反乱を起こし、国ごと滅亡しました。

戦火は、世界の国々で瞬く間に大きく燃え広がります。
世界の半分以上の人々が、美女に味方しました。
彼らはまるで熱に浮かされたように一様に勇敢で、命を厭わず、不眠不休をものともせず、美女に徒なす者たちと戦いました。
その士気は恐ろしい程に高く、一説では、まるで人としてのたがが外れたような、常識では考えられないような膂力と精神力を発揮したと言います。


大切な、愛する、ただ一人の存在を護りたい。
純粋な想いは、熱く、厚く、篤く、連綿と繋がっていきます。
美女への愛が、彼らを護り、鼓舞し、称え、そしてさらなる戦場へと駆り立てました。

やがて、戦いは終わりました。
美女への愛の、勝利でした。
世界が、人々の心が、ひとつになりました。
同じ想いで、ひとつに結ばれました。

この世から戦争が無くなった瞬間でした。
同時に、人と人との間にあるあらゆる確執や垣根も存在しなくなったのです。
国も信仰も、民族も文化も、友情も家族も。恋人も、子孫も。
過去も、未来さえも。

なぜなら、人々の心は、美女への愛でひとつに繋がっていたのですから。
彼女への愛だけがあれば、みな、幸福だったのです。
めでたしめでたし。







おしまい。


そう、かくして世界はおしまい。
種としての人の、おしまい。
子孫を残すということを忘れた人類に、次の世代はありませんでしたとさ。









穏やかに、緩やかに狂って終わった人間の世界。
その果てで、引き金となった美女は、何を思ったのでしょうか。
これについては、何も伝えられていません。
代わりに、ある人物が残した言葉を記して、この昔語りを締めくくりましょう。

その人物は、絶世の美女を世に送り出し、人々に知らしめた立役者であり、導き手でした。
実は、人類に最後をもたらした絶世の美女は、彼なしでは決して生まれ得ないものだったのです。
言い換えれば、彼こそが世界を終わらせた、真の引き金だったのかもしれません。

しかし……
終わりゆく世界の果てで、彼はこんな言葉を遺したと言います。



「確かにあのとき、俺は▲▲の背中を押した。
 自分でもこの先どうなってしまうか分からない、そう言う彼女の背中を。
 その結果こうなってしまったとするなら、彼女ではなく、自分にこそすべての責がある。

 ただ、思う。
 この結末が本当に彼女の魅力、輝きによってもたらされたものであるなら、この魂が永劫の炎に燃やし尽くされるに値する罪であったとしても、俺は自らの職責を全うした、▲▲▲▲▲▲▲としての本懐を遂げた、そう言って胸を張れるだろう。

 だけど、悔しいことに、そうじゃない。
 違うんだ。
 みんな、▲▲を見ていたわけじゃなかった。
 俺も彼女もうすうす気づいていたけど、今ならはっきり、分かる。

 人々が彼女に夢中になったのは、彼女が美しいからとか、魅力的だからとか、そんな理由ですらなかった。
 ただ、絶世の美女という役割、設定とでも言おうか、彼女にそういうものが貼り付いていた、ただ、それだけのことだった。

 貼り付けたのが、神か悪魔か運命というやつなのか、そんなことはどうでもいい。
 ただ、▲▲でなくても、よかったんだ。
 たまたま▲▲だった。それだけだった。
 その陰に、彼女の本当の魅力は、埋もれていた。そう思う。

 いや……結局、すべては俺の力不足だ。
 彼女がどれだけ美しいか、素敵なのか、その魅力を、解き放てなかった。伝えきれなかった。
 
 それが、今となってはどうしようもなく、悔しいよ。



 ……あいつは今でも信じているらしい。
 まだ、これで終わりじゃないって」




上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。